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更新日 2015-08-06 | 作成日 2007-09-15

Stories of The Rain

夢見るころを過ぎても

第七章 兵どもが夢の跡

written by Akio Hosokai

DSCF0007_m.jpg 「細貝!鵜原海岸のライブハウスの跡地の写真を撮ってきた。何か感じるところを書いて、ホームページに載せてくれ!」と屋代から電話があった。こんなに飲んじまって、明日の仕事に影響ねぇかなノと心配していた、秋の夜のことだった。第2章でも紹介した、学生時代の夏休みに海水浴場でやったライブハウスの話ですがな...あまりにも「あぶないこと」ばかりやっていたので、感じるにしても、ヤバイな... 。

 Eメールで送られてきた写真は、何とも殺風景な空き地と季節外れの海水浴場の写真だった。ビキニのお姉ちゃんでも映っていれば「やる気」が出るのに。俺には向いてねぇ。ところが、じっと見ていると切ない気持ちになってくる。何の変哲もない風景写真を見て、切なくなってくる。アルコール漬けの海馬が「切ないぜ」と言っている。走り続けていると気がつかないが、ほんのちょっと立ち止まると、時間の経過というものが、心に語りかけてくる。35年前の自分たちが、心の中のスクリーンに映し出される。

DSCF0008_m.jpg 「え??ここでライブ、やるんか?」そこには台所と和室だけの小さな木造家屋と鉄骨の骨組みにトタン屋根のライブハウスがあった。風通しを良くしようという心配りからか?壁らしきものは、なかった。屋代の親戚が準備してくれたライブハウス。途方に暮れたね。東京から現地に到着した日の午後から全員で補強作業。浜辺の砂を土嚢につめて、屋根の上において防音。壁やドアの代りに、ムシロを何重にも張り付けて防音。古代人の集会場のようなライブハウスができた。すっげぇ。良くやった。自分たちを、褒めた。
 木製のステージにアンプや楽器を運びこんだ。バンドメンバーは、砂漠に降った雨が浸み込むような勢いで、音だしを始めた。ガンガン、ギンギン、練習した。 海水浴場へ行くためにライブハウス横の小道を通る水着姿が、きょろきょろ見回している。何日もかかったのにノ何のことはない。防音効果は、なかった。
 警察官が来て騒音測定をした。大きな音を出さないよう注意された。地元のヤクザさんが日本酒を持って、「何でも相談に来なさい」と開店祝いにかけつけてくれた。小さな町中の電信柱にポスターを貼り、炊事当番兼ウエイトレス役の女子高校生達も東京から到着した。アルコールやつまみ類も搬入した。マネージャー役の屋代のたっての希望で、田舎のキャバレーにあるようなミラーボールも設置した。"ぼっとん便所"もあるし、さて、準備完了。明日の開業を祝って、今夜も、死ぬほど飲もうぜ!

 The Rainの3週間にわたる、悪名高き"真夏のライブハウス"は、こうして始まった。えっ?何が切ないんだって?...そうだよね...何が切ないんだろう...。分からん。そのことは、筆を進めながら、おいおい考えていくことにしよう。走り続けるだけでなく、時には立ち止まりながら...。