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更新日 2015-08-06 | 作成日 2007-09-15

Stories of The Rain

夢見るころを過ぎても

第一章 たまごくらぶ・ひよこくらぶ

written by Akio Hosokai

dummy_009.jpg 昨日も今日も明日も、和田善郎と細貝明夫はJAZZ喫茶に入り浸っていた。昼飯代までつぎ込むほどのめり込んでいた。大学二年生のある日、物理化学の授業を抜け出したNARUのカウンターで、「いっそのこと、俺たちでジャズバンドをやろう!」と決めた。とにかく、そう決めた。大学のビッグバンドにいた同級生の谷輝夫をだまくらかして、さっそくお茶の水のチャキというスタジオでJAZZの練習をした。自己流の練習でやっとヘ音記号が理解できる程度のピアニスト、ギターしか弾けないベーシスト、ドラマーにいたってはドラムに触るのも初めてという暴挙だった。延々とタバコを吸い続けただけで、2時間が過ぎた。

「ジャズは無理だ。ちくしょう」何日か後のNARUのカウンターで細貝の目に飛び込んで来たのは、中学時代の友人で高校時代にロックバンドをやっていた仲本憲一の勇姿だった。「やってもいいよ。ただしロックだぜ!」旧友の嘆きを聞いた仲本は天使のような一言を吐いた。良いことは続くもので、中学時代のクラス会の連絡を入れた旧友が少々ドラムスをやっていると言うことで、バンド結成の誘いに快諾した。海外遊学(本当に遊んでいたのだと思う)から帰国したばかりの細貝の親友・荒木章安だった。よっしゃ、ギターとボーカルが仲本憲一、ドラムスが荒木章安、キーボードが和田善郎、ベースが細貝明夫、メンバーが揃った。しかも、全員、気心が知れている。ロックかぁ。ロックだ。あれほどJAZZが好きだったのだから節操がないと言えば節操がないが、これで中学生のころから憧れていたエレキを弾けて不良になれるってぇわけだ。とにかく、恥ずかしくなるくらいの燃えたぎるエネルギーがあり余っていた。

 と言うわけで、夏休み終了後、東京郊外のとあるアパートの一室にメンバーが集まって、初めての練習をした。課題曲はBeatlesのCome together、CCRのUp around the bendとDown on the corner。「ロックを聴いたことのない奴もいるんだから、基本となるCCRから始めよう」と言う仲本の提案だったが、それにしても初回練習は悲惨なものだった。かき集めた楽器が、フォークギター1本、アンプなしのベースギター1台、ピアニカ1台、ドラムスのスティック2本、…これだけ。これでロックを練習した。しかし若さというものは素晴しい。それなりにロックっぽく聴こえてくる。大学の分厚い教科書をスティックで叩くと、スネアやタムの音に聴こえてくる。全員の顔が希望に満ち溢れていた。途中から酒盛りが始まり、それはもう大騒ぎ。いつしか「飲んだくれバンド」と呼ばれるようになったが、アルコールの方はすでにベテランの域に達していたようだ。

 その後も師匠であるCCRの練習を続けた。よく演奏したHave you ever seen the rainとWhoユll stop the rainというナンバーから、バンドの名前を「The Rain」とした。まだまだロックバンドという楽隊が世間から白い目で見られる、そんな時代の話である。