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更新日 2015-08-06 | 作成日 2007-09-15

Stories of The Rain

夢見るころを過ぎても

第三十五章 幽体離脱

written by Akio Hosokai

bc498cabb4a1a010ba2f93a114181c55.jpg「リードギター聞こえない」「じゃボリューム上げるよ」「でも、あまり上げるな。ドラムの音量に合わせるしかない」…何をやっているか分かりますか。LIVE本番前のステージ上のThe Rain。あのね、LIVEって、ステージで我々が聴いている音と、お客さんが客席で聴いている音は、かなり違うんだぜ。知ってた?

それで、まず、我々がステージで聴く音を決めようとしているわけ。こんな感じかな…という段階で覚悟を決めて、とりあえず1曲やってみる。バランスはどうだっぺ?

ここで、ミキサーさん(以後ミキサー)が登場。The Rainとのやりとりが始まるわけよ。
「ギターさん、音、デカすぎです」とミキサー。「ギターとボーカルがあまり聴こえない」とキーボード。「モニターの音量を上げときます」とミキサー。「ベースの返しも少しだけ上げて下さい」とベース。我々はそれぞれのアンプから出る生音だけでなく、ステージに向いたモニターの音に助けられているわけ。生音をむやみに大きくすると、LIVEの会場は爆音で埋め尽くされ、何が何だか分からなくなってしまうってことだ。
こういったやりとりがしばらく続いて、これでやっと、演奏する我々にとっての音の環境が決まるわけよ。これを中音(ナカオト)と言います。

「じゃ始めます。ドラムさん、音、下さい」とミキサー。余談だが、ステージのドラムは客席で聴くような重い音ではない。ステージと相対した場所に「PA Mixing Room」がある。演奏する全ての音は、ラインまたはマイクでPA Mixerに集められる。ミキサーが調整した音はステージにも返せるし、大きなスピーカーで客席にも流せる。武道館等で観客が聴く音がこれだ。この一連のシステムをPA(Public Address)といい、ミキサーさんの本名はPA Engineerと言う。ミキサーという表現は、PA Mixerという機械にも、PA Engineerという人間にも使われているようだけどね。
「次、ベースさん」「奏法はフィンガーとピックだけですか」とミキサー。「はいOKです」こうやって全ての楽器の音をお客さんが心地よく聴けるレベルに調整する。もちろん声も調整する。因みにステージで我々が聴く自分達のボーカルは、ほぼ生音。お客さんが聴くボーカルはリバーヴというイフェクトが加えられている。それでも俺は、あの程度なんだから恥ずかしくなる。この辺りが、外音(ソトオト)作りの準備段階ってとこだ。

「じゃ全員で1曲やってみて下さい」とミキサー。生音とミキシング音をマッチさせて、お客さんが聴いてベストな音を作ろうとしている。これが外音。一発で決まればいいけど、なかなか難しい。「ミキサー頼み」というのが現実だ。けっこう大変でしょう。
一度でいいから、自分達のLIVEを客席で聴いてみたい…。それって、幽体離脱じゃん。