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更新日 2015-08-06 | 作成日 2007-09-15

Stories of The Rain

夢見るころを過ぎても

第三十一章 酒とロックと女の日々…「女」

written by Akio Hosokai

IMG_2912h-Panorama.jpg夜の部のステージ終了後、いつもの酒盛りをそっと抜け出して浜に出た。遠くには花火をあげている若者たち。すぐそこの貸ボートに腰をおろして語り合っている男女。ミニスカ女のグループが散歩している。見上げると満天の星。ザブンザブンと波の音。誰もいない真っ暗な海の家のヨシズが、海風で揺れている。

悪名高き真夏のライヴハウス…酒とロックと女の日々…やりたい放題の桃源郷とか言っていたけど、実際困ったね。場所がない。ライヴハウスから離れたプレハブ小屋でみんなで雑魚寝するもんで、だから場所がない。そういう事態は事前想定していたため、そういう必要がある連中には「警備のための泊り込み」と称して、ライヴハウスの和室の優先使用をルール化しておいた。しかし、色々な条件が悪い意味で重なって優先使用できない不運な夜もある。親に大嘘ついて、せっかく東京から来てくれたのに。う~ん、もったいないから、何とかしなければ…。「いつやるの?」「今でしょ!」

ということで海の家に入っていった。ベニヤの床に薄いゴザ。ドロドロの座布団もある。
まっ、使えないことはないだろう。「イザという時のために、なるべく奥の方がいいな」と
手探りで乾いた砂の上を分け入った。するとガサガサ…音がした。やべ、誰かいるのか?それとも猫か?…ガサガサ。ドタ。イテ。「誰だ、お前!」「お前こそ、誰だ!」「なんだ、その声は○○じゃねぇかよ!」…その夜、バンドには発情期の宿無しが二組いたわけだ。

あの時代に親不孝にもロックバンドを組んで、しかも真夏の海水浴場でライヴハウスまでやってしまったThe Rainは、もうそれだけで目立っていた。いい意味でも悪い意味でも。目立つということは、何も女性にだけでなく、男性にも目立つということだ。

「そこのズートルビみてぇな頭してるアンチャン達よ、こっちさ、来いや!」The Rainは中年のオヤジ連中に呼ばれた。おそるおそる彼らの席に近づくと、「酒、おごってやっから。まっ、飲めや!」…まんず、ありがで話だども、なじょすた?
それで、素直にビールを御馳走になったわけだが、いつ終わるとも知れないオヤジ連中のグダグダの口上は、まったく覚えてない。
勝浦の隣に御宿という駅がある。あるバンドメンバーの彼女の関係者がやっていた居酒屋。
そこで飲んでいた時の話。オヤジ連中は、御宿の駅長さんやら地元の漁師さん達だったと思う。まっとうな道を踏み外したロックバンドと保守の代表みたいなオヤジ連中で、話が合うわけがない。そのうちオヤジの誰かが言い出した。「俺の娘っこは東京の短大に行っているっけ、お前達、絶対に手は出すなよ!」…「はい、そのようなことは、決していたしません。住んでいらっしゃるアパートも知りませんし。何なら、教えていただけますか。」