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更新日 2015-08-06 | 作成日 2007-09-15

Stories of The Rain

夢見るころを過ぎても

第四十章 銀座アドリア

written by Akio Hosokai

544357_20130425144631.jpgその店は木造三階建ての三階にあった。ほとんどロッククライミングレベルの急な階段をヒーヒー言いながら上っていく。階段の途中に、これじゃ絶対にシャガムことはできないだろうと思うほど狭い和式トイレがある。この階段、上りはいいけど下りは怖い。常連客の女性が2~3人、転げ落ちたそうだ。和田と細貝がまだ中年のころ、もうグデングデンになって夜遅く押しかけ、ずいぶんお世話になったもんだ。銀座にもこんな店があった。

老朽化による建物解体の話が出て、何年か前に近くの頑丈なビルの地下二階に移転した。ここの階段も、けっこう急です。「アドリア」という店。鬼木さんの店。鬼木さんを中心に常連客の方々が、毎年、我々The RainのLIVEに来てくれる。ありがたい話でしょ。

「あ~、食べきれないな…」アドリアは食べ物を提供する店ではない。せいぜいツマミ。その鬼木さんが、【これでもか!】というほどの物量を準備してくれたわけ。いやいやいや有難いというか、ご迷惑をかけたというか。The Rainの屋代の切実な要望として、事前に和田がお願いしておいたわけよ。ほんと良い人だな、鬼木さんって。
平成26年1月10日、The Rainはアドリアで新年会をやった。めずらしく全員が揃った。

やっぱ、忘年会だろうが新年会だろうが、こういう「飲み会」はやった方がいい。練習後も同じこと。スタジオミュージシャンじゃあるまいし、スタジオで物理的に音だけ出して「はい解散」では、決して良い「音」は創れないだろう。俺は頑固に、そう信じている。
複数の人間で一つの作品を創るのだから、曲の解釈やら表現方法やら、共有化すべきことは山ほどある。スタジオでは時間もないし言いづらいことも、「飲み会」では言いやすい。
そういう意味でも、年1回しか行かないけど、気心の知れたアドリアは最高だと思うぜ。

「俺、屋代にサンタナをやらせたい」細貝が言った。昔、サンタナをやりすぎて食傷気味ではあるのだが、それでも細貝はそう思った。ただ何となく、そう思った。
「ポールをやりたい」と屋代。JETがうまく行ったので二番煎じを狙うのか、それとも、今さらながらにポールの「すばらしさ」が気に入ったのか。
「塚田さんの声にぴったり。ビーチボーイズをやってほしい」常連客の井村さんの意見。
これじゃ新曲だらけになってしまうじゃん。まっ、あくまでも意見ということで…

「細貝さん、ちゃんと帰ってますか?」塚田からの電話を女房が受けた。俺は、スーツを着たままベッドの中にいた。それにしても呑兵衛ってのは、つくづく偉いと思う。いや、俺のことだけどね。途中から記憶を失っても、忘れ物も怪我もなく見事に帰宅している。それも最短コースを選んで。お~い、ご主人様のご帰還じゃい。女房殿、許しておくれ!